勇者様と従者さま。
 応接室の扉を開けた。

 閉めた。

 部屋を間違ったのだそうに違いない。

 一回扉から離れるが…おかしい、確かに我が家の応接室だ。

 なら見間違いかと、もう一度勢いよく扉を開けた。


 …やっぱりいた。

 見慣れない少女だ。10をいくつか過ぎたくらいに見えた。

「…なんなんだ」

 勇者が来ているんじゃないのか?妹とか?

 混乱する彼に、少女は勢いよく頭を下げた。

「あああの、はじめまして!」

 がばっ、と頭をあげる。

 動きにあわせて、明るい茶髪が振り乱された。

 真ん丸な空色の瞳が臆すことなくアーサーを見つめていた。


「アーサー=ゴールドスミスだ。…君は?」

 愛らしいといえなくもないが見覚えがない少女である。

 動きやすい木綿の服といい、肩の上で揃えた髪型といい、いかにも庶民という印象だが…。

 少女は困ったように首をかしげた。


「あれ?話通ってませんでした?わたし、今回の勇者に選ばれたエヴァと申します」

 一瞬理解が追いつかなかった。

 言われてみれば、女だし平民だし、確かに勇者かもしれない。

 しかし、ここで会ったが百年めなどという感情は湧かず、代わりに訪れたのは…脱力。


「…子供じゃないか…」

 なぜこんな幼い子供が。

 アーサーの呻きを聞いた少女が、さも心外といったふうに眉をあげた。

「成人した女性に向かって失礼ですよ!わたしは18歳です」

「同い年!?」

 一番驚いた。

 度重なる驚きのせいで疲労が溜まっていく。


「た、確かにその、身長はあんまりないですけどっ…」

 落ち込む少女…エヴァ。

「その…失礼した。それで、勇者殿は私に何の御用だろうか」

「ああ、そうでした!」

 エヴァはぱっと顔をあげた。

 その表情はすでに明るい。

 単純な性質のようだ。


「わたし、従者さまが必要らしいんです。王宮で、ゴールドスミスさまと一緒に行くようにって」

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