勇者様と従者さま。
 アーサーは名門の出身である。

 もちろん、台所に立ったことなどない。

 しかしながら目の前で起こっていることがおかしいということだけははっきりとわかった。


 昼食どきである。

 聖堂から食材を少し持ってきていたので、調理して食べようということになり、エヴァが料理をはじめたのだが。

「エヴァ様、俺は詳しくないが包丁の持ち方はそうじゃないと思うぞ!?」

「うるさいです!料理したこともないボンボンは黙っててください!」

 両手で包丁を構えたエヴァが怒る。…正直怖い。


「ってエヴァ様は経験があるのか!?」

「村にいるころはお手伝いで玉ねぎの皮向いたり、スープ注いだり、お皿洗ったり!」

「それは料理をしたとは言わない!」

 シュリは恐れをなしたのか人型をとらず、一言も話さない。

 うらやましいことだ。


 アーサーが何気なく鍋を覗くと、黄色と紫のとんでもない色彩が目に入った。

(ただの野菜でどうして…)

 アーサーの背中を冷や汗が伝う。


「エヴァ様、保存食!保存食を食べよう!!」

「普通の食材もあるのにそんなもったいないことできません!…やあっ!」

 気合いの声とともにエヴァが大上段から包丁を振り下ろした。

 哀れなジャガ芋が粉砕される。

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