勇者様と従者さま。
 眩暈がしてきた。

 自分が従者?そんな屈辱的な…。


「失礼ですが、それはどなたから」

「王様です!」

 元気よい返事が返ってきた。

 アーサーは今度こそ頭を抱えた。

 それは、王直々の推薦ということか…!

 となると無下には断れない。

「あのう…それに、わたしも、できれば年の近い方がいいので…ゴールドスミスさまにお願いできないかなって…」


「…いいでしょう」

 頭痛に耐えていたアーサーがやっと声を発した。


「えっ、い、いいんですかっ!?」

 エヴァが弾んだ声をあげる。

 尻尾でもついていたらちぎれんばかりに振り回していそうだ。

 そのようすに一抹の罪悪感を感じながら言葉をつないだ。

「…しかし、騎士にとって自分より実力が劣る相手の従者になるなど屈辱的なこと。…ですから私と手合わせして、あなたが勝ったらということでどうです」

「…えっ…あ、あのう…わたし、剣術ちゃんと習ったことないんですけど…」

 実質的に不可能だ。

 見る間にしょぼくれていくエヴァ。

 アーサーの良心がきりりと痛む。

 そんな目で見るな…!


「…では、五本のうちあなたが一本でもとったら勝ちで」

 …我ながらお人よしだ。

 だが一本でも取られはしまいと鷹を括って、庭へ出た。


「…好きなものを」

 庭の片隅には各種の練習用武器が保管されている。

 エヴァは迷った末に刺突剣を選んだ。

「…それは刺突用ですが」

「はい」

 甘いな、とアーサーは思う。

 取り回しやすさから細身の剣を選んだのだろうが、それは刺突に特化している剣だ。

 突きというのは一点集中攻撃である。威力はあるが、かわされたり払われたらもうどうしようもない。細身の剣は斬撃に耐えられない。

 突きが伸びないと意味がないのだ。エヴァのような小柄な、しかも初心者には向かない。

 …そんなことも知らないド素人がなぜ勇者なんだ、と再び疑問に思う。

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