勇者様と従者さま。
 全員が去ったのを確認して、アーサーは声をかけた。

「…行ったぞ」


 途端に、二人が離れる。

 エヴァの瞳は楽しそうにきらきら輝いていた。

「どうですか、わたしの迫真の演技!!」

 女性がはじけるように笑い出した。

「あははっ、面白いこだね!」

「ありがとうございますー」

 和やかに笑いあう二人。


「…すごかった」

 シュリが呆然と呟く。

 禁断の世界を見てしまった気がした。


「あんた達、見たとこ旅人だね?お礼に夕食でもご馳走させてよ」

 女性の申し出は、もちろん、無一文の三人にはありがたいことこの上ない。

 一もニもなく頷いた。



 女性の家は、時計台だった。

 というか、時計台の内部に居住スペースがあるのだ。

「せまくてごめんね、家業が時計台の職人だからさあ」

 女性がフードをとる。紅い艶のある髪がこぼれた。

 その素顔を見て、エヴァが声をあげた。

「あなたは!あのお嫁さん!!」

 その勝ち気な顔は、エヴァが昼間見た花嫁と同じ顔だった。


「ああ、あんた見てたのかい」

 女性はたいして驚きもしない様子だ。

「ええ。あの、でも、どうして…?」

 エヴァがおずおずと聞いた。

 女性は少し考えたが、すぐににっこりと笑った。

「そうだね。じゃあ…食べながらでも聞いてよ」


 テーブルには、あたたかいスープやパンや卵料理などがならんだ。

「美味しい」

 エヴァが思わず微笑む。

「本当?よかった、たくさん食べて」

 確かにどれもとても美味しかった。

 アーサーがパンをとろうと手を伸ばすと、シュリとぶつかる。

 謝って手をひくが、疑問がわいた。

「…剣のくせに食べるのか」

 もちろん女性に聞こえない程度の小声である。

「聖霊だからな」

 シュリも小声で答えになっているのかどうかわからない答えを返してくる。

(…そういうものか?)

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