勇者様と従者さま。
 一方、カレンの部屋である。

 寝台の譲り合いがしばらく続いたあと、二人で寝ようという結論が出た。



 小柄なエヴァと細身のカレンだが、それでもくっつかないと寝台に入り切れなかった。

「か、カレンさん細い…」

 なにげなく触れた脚の細さにエヴァが衝撃をうける。

「贅肉とかどこにあるんですか、いえむしろ贅肉って言葉をご存知ですかー!?」

「ちょ、ちょっとくすぐったいったら!お腹はやめてー!!ひゃわ!」

 カレンが変な声をあげて笑い転げた。

 対するエヴァは真剣そのものだ。

「つまめない…」

 呆然と呟くエヴァの横で、カレンはまだ笑いに苦しんでいた。



「腹筋痛い…」

 ようやく笑いのおさまったカレンが腹をさする。

「…でも楽しいな、こういうの。妹ができたみたいでさ」

 微笑むカレンにつられてエヴァも笑う。

「わたしも楽しいです!」

「うん。でももうやめてね」

「…ごめんなさい」



 それからしばらくとりとめもない話をして、カレンが先に眠りについた。

 エヴァもそろそろ眠くなってきて、まぶたを閉じる。



「…ィ…」

「…カレンさん…?」

 うつらうつらとしている時に何か話しかけられてぼんやりと目を開けた。

 月が明るいため、カレンの寝顔がはっきり見えた。

 頬が濡れていた。


「…レイ…!」

 レイ、という名を呼びながら、カレンは涙を流している。


 伸ばされた手を、思わず握った。


「いやよ…いかな…で…」

「ここにいますから」

 呼ばれているのはレイさんであって、自分がいても仕方ないのだ、と気付いて、言ったあとで悩む。


 しかし、それでもカレンは安心したのか、徐々に呼吸が落ち着いていった。

 それを確認してから、エヴァは部屋を抜け出した。

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