勇者様と従者さま。
 朝が来た。

 カレンは朝食も振る舞ってくれた。


「…エヴァ様がご迷惑をおかけしませんでしたか」

 アーサーが真顔で問いかける。

「蹴飛ばすとか、寝言を言うとか歯ぎしりとか」

「従者さま!」

 エヴァが真っ赤になって怒る。

 カレンは破顔し、

「あはは!ほんと面白いわ、あんた達!…まあ迷惑といえば…」

「カレンさんー!」

 意味ありげに腹部を指すカレンにエヴァは涙目。


 シュリは、賑やかな三人には加わらず、ひたすらに両手で持ったパンをかじっていた。どこか栗鼠を思わせる動きで微笑ましい。

 …その瞳がカレンを凝視していることに気づく者はいない。




「さあシュリ、説明してください!」

 朝食が終わり、いったん部屋に引き上げている。

「…実際見たほうが早いであろう」

 シュリは秘宝の鏡を出すように指示した。

「はい…っていうかナナイ様まだ寝てるんじゃ?怒られちゃいますよ?」

「…呼びかけてみろ」

「…どうなっても知りませんから」


 エヴァは覚悟を決め、息を大きく吸い込むと、鏡に向かって呼びかけた。

「ナナイ様!エヴァですー!エヴァですけど、シュリがやれって言ってるんですからね!ナナイ様ー!」


 その瞬間、鏡に映りこむ風景がぐにゃりと歪み…


 次の瞬間、鏡の中には、


 …何事もなかったかのように、エヴァの童顔が映っていた。



 エヴァは絶句。アーサーも息をのんだ。


「…えっ!何これ、連絡拒否ですか?ナナイ様そんなに怒ってたの!?」

「たわけ!そうではない!」

 シュリが一喝。

「そんな便利な機能などついておらぬわ!…はあ」

「外界と連絡が取れない、ということか」

 脱力したシュリに変わってアーサーが言った。

 シュリは頷く。



「…さあ、それがどういうことかわかるか、あるじ?」

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