勇者様と従者さま。
 なんとか階段を上りきり、扉を開けると――

「鐘楼、ですね?」

 大きな鐘が吊り下がっていて、屋根はあるが四方は柱だけ、というシンプルな造りである。

 怖いくらい高いが、街が一望できる。

 疲れきったエヴァはしばし風に吹かれる。体の熱がひいていく…


「エヴァ様!」


 が、アーサーの慌てた声で現実に引き戻された。

「…なんです」

 軽くがっかりしつつ目を向け…

「えええぇっ!」

 エヴァも悲鳴をあげた。


 そこには、倒れている人影があった。


 一人は、金髪のかわいらしい女性。

 一人は、茶髪で少しそばかすの散った若者。

 そして最後の一人は髭を生やした中年の男性で、…カレンと同じ紅い髪をしていた。


「こ、これって行方不明っていう!?…あの!大丈夫ですか?ねえ!」

 エヴァが駆け寄って、中年の男性を揺すってみるが、反応はない。

「…息は、ある。血色もいいしとくに問題はなさそうだが…」

 アーサーも首をひねった。


「やはりここで間違いなかったか…」

 シュリがひとりごちた。


「あるじ、従者、やめておけ。魔物の影響がなくなるまで目は覚まさぬ」

「じゃあ、魔物を祓えば…!」

「ああ、そうだ。…と、少し黙っておれ」

 シュリが急にエヴァの言葉を制止した。



 ほどなくして、扉が開いた。カレンが現れる。

「あれ?あんたたち、こんなとこにいたのかい」

 ついさっきの話もあり、エヴァはびくりと震えた。


「なに、エヴァ、びくびくしちゃって。ここ入ったくらいで怒ったりしないって」

 …カレンの態度に変わったところはない。

「…綺麗だろ?あたし、ここ大好きなんだー」

 普通だ。…普通、すぎた。


「あああの、カレンさんあそこ…」

 エヴァは震える指で倒れている三人を指した。

 カレンはそちらに目を向ける。


「え…どうかしたの?虫でもいた?」

 その目は、三人の上を素通りした。


「え…だってそこに!ふぎゅっ」

 尚も言い募るエヴァの口を、アーサーが素早く塞いだ。

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