勇者様と従者さま。
「…寒い」

 夜だ。

 高い位置にある鐘楼は寒い。

 冷たい夜風も吹き込んでくる。

 エヴァはかぶった毛布をもそもそと引き寄せた。

 もう少し欲しいが、一応とはいえ隅に倒れている行方不明の三人にも毛布をかけているから、もう使えるものはない。


「シュリ、本当にこんなとこで待ち伏せしてないといけないんですか?中で声かければいいじゃないですか」

「…やわなやつだ」

 エヴァのぼやきにシュリが呆れた顔をする。

「鐘を使っているようなのだ。しかたあるまい」


「うー…従者さま、マントいいですね…」

 エヴァが次に目を留めたのは、マントにくるまり長剣を抱いているアーサー。

「…エヴァ様もマントを持ってただろう。邪魔だからと聖堂に置いてきたのはどこの誰だ」

「だって邪魔くさいじゃないですか、…あったかそうでうらやましい」

「…言っておくが俺だって寒いんだからな、やらんぞ」

「はーい…」

「……」

「……、っくしゅん」

 エヴァが小さなくしゃみをした。

 アーサーはひとつため息をついて、

「…入るか?」

 前を広げてやると、エヴァが目を見開いた。

「いいんですか!?」

「…主人に風邪をひかせるわけにいかないからな」

「従者さま…!」

 エヴァは感動。

「早く入れよ!寒いんだよ!!」


 ぎゃあぎゃあ騒ぐ二人をシュリが生温い目で見守っていた。

 ふと、その身が強張る。


「…来た」


「…え?」

 一枚のマントを引っ張りあっていたエヴァとアーサーが振り返る。



 鐘楼の扉が開いて、



 白い寝間着に長い紅髪を散らした女性が立っていた。

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