勇者様と従者さま。
「ま、待ってください…」

 エヴァが弱々しい声で止めた。

「話が、わかりません…!この人は、あのカレンさんなんですか!?祓ったらまたカレンさんも亡くなってしまうんですか…!?」


 <ハルジニア>が嘲笑した。

「何も知らない子…!いいわ、あたくしから説明してあげる」

「余計なことを言ってみろ、吹き飛ばしてやる…!」

 シュリが物騒なことを言う。

 アーサーも長剣を抜いた。

「あらまあ、恐ろしいこと…この娘がどうなってもいいのかしら」


「『この娘』?」

 エヴァが反応した。

「…ええ。あたくしはね、悪夢を見せてその恐怖を喰らうの。…久々でお腹も空いていたし、あの方にも派手にやれと言われていたから、この娘を選んだわ」

 <ハルジニア>は鐘を指差す。

「あれを使って、街中に悪夢を広げられるから…ふふ、この娘はあたくしに取り憑かれていることには気付いていないわ。だってそのほうが苦しんでくれるもの…!それにほら、…悪夢の中、何にも気付いていなかったでしょう?恋人も親友も父親もそこにいるのに!愉快ねえ!」

「…じゃあ、わたしが会ったカレンさんは」

「本物の、この娘の精神よ。うふふ…可哀相な娘でしょう?」


 しゃっ、と空気を裂く鋭い音がした。

 <ハルジニア>は、悠然と首筋に突き付けられた聖剣を見つめた。

「…あなたこの娘を傷つけられるのかしら?この娘を貫けるの?」


 エヴァは唇を噛んだ。

 聖剣の力は、相手を貫かなければ、中にいる魔物までは届かない。

 つまり、カレンの身体を突き刺さなくてはならない。


「…そんなの嫌です…けど!」

 きっ、と目をあげる。

「カレンさんは泣いてた…!あなたの悪夢に、本当に苦しんでいたんです!」


 今助けます、と呟いて、

 エヴァは、手にした剣を、

 彼女の肩口に突き立てた。


 重い手応えに、思わず目をつぶる。


 <ハルジニア>はなぜか抵抗もせず、うっすらと笑っていた。



 聖剣の刺さったそこから、白銀の光が爆発した。



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