勇者様と従者さま。
「…エヴァ様」

「はい、なんでしょうー?」


 ゴールドスミス家の庭。

 今日も鍛練が終わったところである。

 アーサーはエヴァと同い年とは思えないほど剣が上手い。

 疎いエヴァにもすごさがわかるくらいだ。

 この前はまぐれで一本入れたけれど、あれは本当に運がよかっただけなのだと実感した。

 こうして習ってみるとアーサーの技術には感心してしまう。

 …同時にその厳しさにも。

 実に鬼教官だ。

 エヴァをびしばししごいているときのあの生き生きした素敵な表情。

 お蔭様で、普通女子の体力しか持たないエヴァは、筋肉痛で歩くことすらつらい。


 へたりこんでいるエヴァに、アーサーは不機嫌に告げる。

「…いつまでうちにいるんだ」

 その通り、現在エヴァはゴールドスミス家に逗留中である。

 稽古をつけてもらうには楽だし居心地もいいが…

「旅に出なくていいのか」

「そういえばそうですね!」

 すっかり忘れていた。

「そういえばじゃないだろう」

 アーサーが溜め息をつく。

 従者とも思えぬその態度。

 最初こそ丁寧な態度だったアーサーだが、2日と経たないうちに地が出た。

 頻繁に怒っていたためだろう。

 エヴァとしてもそのほうが気楽で有り難いのだが。


 とにかく、エヴァは考える。

「…あの、従者さま」

 間抜けな呼称である。

 従者をさま付けする人間がどこにいるのかとアーサーは反発したが、エヴァが譲らない。

「なんだ」

 アーサーは顔をしかめながら答える。

「あのー、勇者って何をしたらいいんですか?」

 アーサーが信じられないものを見る目でエヴァを見る。

 沈黙が痛い。

「…エヴァ様」

 地を這うような低い声にエヴァは戦いた。

 アーサーは聖人のような笑顔を浮かべている。

 …こめかみが引き攣っていた。

「…ご、ごめんなさいー?」

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