勇者様と従者さま。
 街はカレンの悪夢から解放された。


 シュリの語ったところによると、街全体がカレンの悪夢の中にあったのだという。

 もとはただの悪い夢だった。

 だが、鐘の音が悪夢を広げていた。

 だから、悪夢の中で消えた三人は街でいないものとして扱われたし、誰もそれを疑わなかった。

 …本人たちでさえも。

 自分が存在しないという認識のもと、仮死ともいうべき状態にあったのだ。

 カレンが見せられた悪夢は、大切な人が次々と消えるというものだったから、このまま続けばもっと多くの人が消えていたかもしれない、という。


 エヴァ達に三人が見えたのは、シュリは聖霊で、エヴァとアーサーは鐘の音を聞かなかった…つまり、街にいながら悪夢にとらわれていなかったためだ。


 <ハルジニア>はカレンに気づかれないように取り憑いていたから、カレンの精神自体にはそこまでダメージはなかった。


 そこまで語ってシュリは嘆息した。

「ただ…あやつは逃がしたがな。もとから逃げるつもりだったのだろう。我等を試しに来た…というところか」


「…シュリ」

 エヴァが口を開いた。

「あなた…何を隠してるんですか。あの<ハルジニア>を知っていましたし、あの方ってなんです、まさか魔…」

 言いかけたところでシュリが首を振って制止した。

「…我が眠る前の、ことだ」

 渋い表情で言う。

「…すまぬ。だが我はいまただの聖剣でしかない、…誓おう」

 それきり黙り込むシュリ。


「信じます、それは信じます、けど…」


 エヴァは俯いた。



「…シュリ、今は一緒に戦ってくれるだけで充分です…だから…」

「…あるじを裏切ることはせぬ」



 エヴァはちいさく息を吐いた。

「じゃあ、わたし、カレンさんの様子見てきます!従者さま一人じゃ大変ですから」

 無理に明るい声を出しているのがまるわかりだ。



「すまぬ」

 エヴァが立ち去った扉を見つめながら、シュリはつぶやいた。

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