勇者様と従者さま。
「レイ!」

 寝台の脇に腰掛けていた茶髪の青年は、その声で顔をあげた。

 戸口に、金髪のかわいらしい女性が立っていた。

「マリナ」

 レイと呼ばれた青年が微笑む。


「ねえ、カレンはどう?」

 マリナは心配そうにたずねる。

 レイは無言で首をふった。

「そう…」

 マリナも肩を落とした。


 寝台に横たえられているのは紅い髪の娘。

 寝顔は安らかそのものだが、彼女はもうまる二日、目を覚まさない。


 カレンが魔物に憑かれていて、自分たちはいないことになっていたのだと聞いたときは驚いた。

 鐘の音にのせて、カレンの悪夢は街中に行き渡ったらしい。

 街中が悪夢を見続けていたとでもいうべき状態だったという。

 街も、悪夢から解放されたとたん、大騒ぎになったようだ。

 集団で変な思い込みをしていたのだから当然だろう。

 カレンを救ってくれた旅人たちは、今はいない。

 カレンの父親とともに街の人々に説明に行っている。

 その旅人たちは、カレンはじきに目覚めると言っていたが…


「うーん、でも、カレンの悪夢が具現化してた、っていうんだから…この程度でよかったわよ」

 マリナがカレンの顔を覗き込みながら言った。

「今大騒ぎになってるけどさ、それだけよ。例えば…あたしが連続殺人犯になって街中皆殺し!とかだったらさ」

 レイも想像して顔をしかめた。

 ついでにマリナの頭の中は物騒だとよくわかった。


「…もう、呑気な顔して寝ちゃって。早く目を覚ましなさいよ」

「そういえばあさって結婚式だっけ」

 レイの問い掛けにマリナが不機嫌に頷いた。

「カレンが来ないなんてありえないわ。本当は嫌なんだけど…本当なら式あげてたはずの日は悪夢騒ぎの最中だったからね。来賓が帰っちゃうのよ。…町長の息子も大変だわ」

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