勇者様と従者さま。
「ああ…それでその町長の息子はどうしてるの」

「落ち込んでるわ」

「…なんで?」

 マリナは鼻を鳴らした。幼いころからの親友だけあってどこかカレンと似た仕草だ。

「悪夢の中とはいえカレンと結婚したでしょう…カレンとレイに合わせる顔がないって。ついでにあたしとあなたを忘れてたことも。しょうがないのにねえ!あたしたちなんか自分が生きてることも忘れてたんだから!」

「あいつばっかだなー!前からだけど!」

 二人して爆笑。

 普段と変わらない風景だ。

「っていうかあの間本気でカレン好きだったらしいの!そんでまた落ち込んじゃってー」

「それありえなさすぎてちょっと見てみたいんだけど!」

「恋人の台詞じゃないわね。あたしも見てみたいけど!」


 その風景に、


 カレンだけが足りない。


 マリナがふいに笑いを止めた。

「ねえ…カレン聞いてる?ばかみたいでしょ?…いつもみたいに一緒に笑ってよ…ねえ…カレン…!」

 その大きな目から大粒の涙がこぼれる。

「怖かったよねカレン…ひとりにしてごめん…ねえ、レイもあたしも、ここにいるから…」

 レイも無言でカレンの手を握りしめた。



 …どうか、カレンが帰って来ますように。




「…それじゃあたしそろそろ帰るわ」

 ぐす、と鼻をすすってマリナが言った。

「あのおばかさんを慰めなきゃいけないし…ドレス直さなきゃ。カレンサイズにされてるからもうきっついし長いし。うらやましいくらいの細長体型だわ」

 わざと明るい声を出すマリナに、レイも微笑んだ。

「ああ…頑張って」



 マリナを見送ったレイの背中に声がかかった。


「…レイ」


 その、声は…

 はやる気持ちを抑えながらレイは振り返った。


「レイ…本物?」

 カレンが、

 信じられないという表情で、

 レイを見ていた。


 レイの瞳から涙があふれた。

「やだ…泣かないでよ…」

 カレンの瞳からも。


「怖かったよ…悪い夢、見てた気がする…」

 呟くカレンを力一杯抱きしめた。





「おかえり、カレン」
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