勇者様と従者さま。
 魔物退治の謝礼金が出た。

 保存食を買った。

 日持ちのする野菜や塩漬肉も。

 そして、持ち運びに便利な調理道具と調味料。

 街を出る準備は万端だ。


「従者さま、ご機嫌ですね…」

 エヴァが若干気持ち悪そうに言う。

 アーサーははっと表情をひきしめたが、すぐまた頬が緩んでくる。

 夕食は何を作ろうか。しばらく料理していなかったから楽しみで仕方ない。


「シュ、シュリ!従者さまが鼻歌を!!」

「…そっとしておくがよい」

 後ろが騒がしいが知ったことか。


「だって従者さまが…あーっ!」

 突然エヴァが大声をあげた。

「見てください、結婚式!」


 確かに、広場はにぎわっている。

 皆が祝福の言葉をあげていた。

 アーサーが目を細めていると、突然手をつかまれた。

「ほら、行きますよ!」

 突撃するエヴァに引きずられながら視線をやると、反対側ではシュリが引きずられていた。

 目があって、苦笑を交わす。


 花嫁は金髪のかわいらしい女性だった。

 花婿と腕を組んで歩いてくる。

 幸せそうな笑顔が眩しい。

 花婿は少し頼りなさそうな男性で、やはりこの上なく幸せそうな顔をしていた。


 最前列では紅い髪の娘がエヴァ並に大騒ぎしていた。

「おめでとう!!マリナを幸せにしないとあたしがぶちのめしに行くよ!おめでとう!」

 隣には茶髪の青年が苦笑しながら寄り添っていた。


 花嫁がこちらに気づいた。三人の前に歩いてくる。

「ねえ、ありがとう!あなた達のおかげよ」

 花婿も笑顔で会釈。

「おめでとうございます!」

 エヴァが祝福した。マリナはにっこりと微笑む。


 カレンがこちらに駆けてきた。

「あたしからも…ありがとう!」

 その笑顔にもう陰はない。

 マリナは振り向くと、カレンにブーケを突き付けた。

「…受け取れ!」

「え…何?」

「次はカレンがいっぱい幸せになるのよ!ねえ」

 マリナが周りを見渡すと、大きな歓声があがる。


 タイミングよく、時計台の鐘が鳴り出した。



それはまるで、幸福の鐘。

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