勇者様と従者さま。
 勇者の気構えについての長い長い小言をおとなしく聞いていたエヴァは、ふと聞いてみた。

「…っていうか、そもそも勇者ってなんですか?」

 アーサーは絶句。

「…ごめんなさい!でも全然わからないんです!」

 すかさず謝るエヴァ。

 最近二言目にはごめんなさいな気がする。

「誰になんで選ばれたのかも、何をすればいいのかも…」

 アーサーの前で俯くエヴァ。


「…本当に何も知らないのか」

 アーサーが驚いたようにつぶやいた。

「…だって、辺境の農村で育ったんですもの。勇者なんて遠い話でしかありませんでした」

 エヴァは唇を尖らせる。

 言い訳はしたくないが、平凡な田舎娘が勇者に選ばれるなんて誰が思うだろう?

 ましてエヴァの村は魔物もあまり出ない地域だったのだ。

「そうか…すまなかった」

「えっ…」

 今度はエヴァが絶句。

「い…一体なんですか、どうしちゃったんですか従者さま」

 恐る恐るの問い掛けに、アーサーは複雑な表情になる。

「エヴァ様は俺をなんだと思ってるんだ」

「え、だって従者さまが謝った…!」

「…もういい。確かにあなたの境遇を考えてなかった。俺はずっと王都で、家も騎士の家系だから」


「従者さま…!」

 エヴァは感動に声を震わせた。

「意地が悪いだけじゃないんですね!…実はいい人なんですね…!!」

 途端に、頭をはたかれた。

「…喧嘩を売ってるのかなら買ってやろう。…立て」


 …そう。鍛練が終わったばかりだったのだ。

 場所は庭で、用具もある。

 そしてエヴァは疲労でへろへろだ。

「…鬼」

 思わずもらした呟きを聞き取ったか、アーサーが微笑んだ。

「情けない勇者様に強くなっていただくために心を鬼にせねばな」

 心なしか冷気が漂ってくる。

「…従者さまってわたしのこと主だなんてひとかけらも思ってませんよね」

 エヴァは半べそで立ち上がった。

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