勇者様と従者さま。
「あ…従者さまっ?」

 エヴァが即座に声をかける。

 足音の主はやはりアーサーだった。

 アーサーもこちらに気付き、駆け寄ってきた。

 だが顔色が真っ青である。

「従者、さま…?どこに行って…」


 エヴァの問い掛けにも答えず、アーサーは、

「…出た…!」

 ただならぬ様子で、呟いた。


「えっ…出たって!まさか」

 エヴァの期待に満ちた眼差し。

「幽霊というやつか」

 シュリも、露骨ではないまでも面白がる様子を隠そうとしない。

「認めたくはないがな…!」

 アーサーが呻くように言う。

「ええええええ!!ほっほんとに!ほんとに!?いいですねえ!どんな幽霊でした?ほんとに足がないんですか?ねえっ!」

 興奮してまくし立てるエヴァ。

 アーサーはもうそれにつっこむ気力もない。

 …ただ。

「エヴァ様と似たような…ああ、そこに落ちている絵にそっくりだ」

 アーサーが示したのは、先程魔物が落とした…つまり、よりしろとしていたらしき紙である。もちろんアーサーはそんなことは知らないが。

 エヴァもシュリも気に留めていなかったので、今の今まで放置されていたのだ。


「絵…?」

 シュリが拾い上げて、それを開く。

 どうやら肖像画のようである。

 描かれているのは二人の少女。

 背の高いほうは、金髪に豪奢なドレス。

 低いほうは、エヴァと同じ明るい茶髪を肩に流し、清楚なドレス姿だ。

 どちらも、人形のように愛らしい。

 ただ、ドレスのデザインや、絵の具の劣化から見て、相当年月が経っているらしかった。


「…あれ、この金髪の女の子、さっきの」

「ああ。どうやら…憑依した肖像画から姿を借りていたようだな」

 エヴァとシュリが気づく。背の高い少女の姿は、魔物にそっくりだった。いや、魔物が少女にそっくりだと言うべきだろうか。

「だが…従者の話では、その幽霊は、そちらの娘らしいな」

 シュリは茶髪の娘に目を向ける。


 …そのとき。

 しばらく黙っていたナナイが口を開いた。

「…ちょっと、いいかしらあ?」

< 91 / 93 >

この作品をシェア

pagetop