勇者様と従者さま。
6*悲劇の王子様

久しぶりの王都ですよ!

「…一体、どうしたんでしょうね、ナナイ様。いきなり帰って来いなんて」

 エヴァが訝しむ。

「さあな…あの方の考えることはわからない」

 向かいに座ったアーサーが、気のない返事を寄越した。

「…それにしても」

 エヴァはそれを特に気にすることもなく、話題を変えた。

「馬車ってはやいんですねえ!」


 …そう。

 エヴァとアーサーは、今、馬車の中にいる。

 それも、急ぎの用のための早馬車だ。

 農民出身のエヴァにとっては、馬車といえば荷馬車であり、こんなにたくさんの馬に引かれた、速い馬車など初めてなのだ。

 目を輝かせて外を見るエヴァに、アーサーは呆れ顔。

「…そんなに面白いか?」

「はい!」

 無垢な子供のごとき笑顔が返ってきた。

「従者さまは楽しくないんですかっ?」

「楽しいも何も…馬に乗っているのと変わらないだろう」

 それに対し、エヴァは大真面目に反論する。

 面倒そうながらも、アーサーもその無意味な議論に付き合う。

 実に平和な雰囲気が流れていた。


 …嵐の前の静けさ、ともいうべき、平和が。




 
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