愛のカタチ
「ふう~ん。」
納得したのかしていないのか、上戸さんは組んでいた腕を解いた。
冷や汗ものだったが、私もこの一年で誤魔化しがかなり上達しただろう。
最初は緊張ばかりの毎日だったのに。
変に瀬戸支店長を意識してしまって、毎日家に着くと言い様のない疲労感に襲われた。
でも救いの手を差し延べてくれたのもまた、瀬戸支店長だった。
「普通にしてたらいいんだよ。普通に。」
そう、普通に接したらいいんだ。
『瀬戸支店長』と。
でも彼は、たまに二人きりになる会議室やエレベーターのなかで「なぁ美波」と別の顔を見せ、私をからかう。
社内では『金沢さん』なのに。
そう、私しか知らない顔で。