えんざくら
「…俺……もうすぐ県外に引っ越すんだ。」
「えっ!?」
優也くんの思いがけない言葉に
動揺と困惑でいっぱいになる私。
それと同時に、悲しみと苦しみが溢れ出す。
「えっじゃあ…もうこの場所で会うことも…なくなるの…?」
涙ぐむ私が、震えた声で問いただす。
「…わかんない……最後かもしれないし…最後じゃないかもしれない。」
「………。」
「…ただもう時間が無いから、ずっとさくらに伝えたかったこと…今言うよ。」
そう言った後、優也くんは口を閉ざして
下を向いてしまった。
何秒かした後、顔を上げて
真剣な眼差しで私の顔をじっと見始めた。
「…俺は………」
「おい優也ぁ!!!!」
「「!!!!??」」
いきなり遠くから
優也くんを呼ぶ怒声が聞こえてきた。
私はあまりの突然さに
体がビクッと跳ね上がって、
涙もすっかり引っ込んでしまった。
「やばい!!親父だ…っ!」
「こんな所で何をやってるんだ!!お父さんもお母さんも、外に出て良いなどと言った覚えは無いぞ!!!!もう出発時間だ!!早く戻って来い、たくっ。」
優也くんのお父さんはその場でそう言って
さっさと引き返してしまった。
「あっ…んじゃ俺、もう行くよ…。」
「え…伝えたいことは…?」
「……いいや、もういい。なんか…ごめん…。」
「……いつかまた…もしどっかで会えたら…その時に教えて…?」
「………うん。…忘れるなよ?」
「もちろんっ!…また、会えるよね…?」
「この桜の木にお願いしたら、また会えるかもな…!」
「…え?」
「それじゃあな、さくら!!」
今までで一番と言っていいくらいの
とびっきりの笑顔を見せて
優也くんは去って行った。