あいつが死んだ……


 なぜこんな事に。

 なぜこんな事をした?

 私がいつも家にいなかったから?

 私が、徹が語ってくれた夢を反対したから?

 それとも、他に何か別の……?

 分からなかった。


 思えば、幸福な家庭だと勝手に思っていた私の家族は実は表面だけで、一枚皮をめくってしまえば、そこには何か暗い闇が潜んでいたのかもしれない。

私達は徹を頼りにしていた。いや、頼りにし過ぎていた。

 遊び盛りの息子に気を使わせたり、手伝わせたり、本当は嫌だったのではないだろうか。

そんな時に、私は熱く語ってくれた息子の夢を踏みにじったのだ。

 馬鹿な事をしたものだと思う。

 賛成するかしないかはともかく、もっと話を聞いてやるべきだったのかもしれない。

名付け親である私が、自分の道を進もうとした徹の、夢への道を壊したのだ。

 なぜこんな事になったのだろう。

 キャッチボールをした時、私の投げる球に驚き、尊敬するような眼差しを向けた時の徹の顔。

 小学生の授業参観の時、私の目の前で尋ねられた問題を見事に答えて、嬉しそうで、だけど少し照れ臭そうにした時の徹の顔。

 オーストラリア旅行に行った時、店のメニューの文字が読めなくて適当に頼んだら見た事もない物が出て来て、それを食べてしかめっ面を浮かべた時の徹の顔。

そして、ミュージシャンになりたいと言って、私に反対された時の徹の困ったような顔。

 顔、顔、顔。徹の顔。

 息子の成長していく様の様子が、刻々と鮮明に浮かび上がる。

 なぜ。

 どうして。

 徹……。

 溢れだす記憶に耐え切れなくなって、私の瞳からはポタポタと雫が滴り落ちた。


 坊主のお経が終わって、私は遺族代表の挨拶をと声を掛けられた。

本当はそんな事をする心の余裕さえない。だが、何とか私は立ち上がり、参列者達の方に顔を向けた。

 涙が溢れ出す。

 前が見えない。

 口が動かない。


 私は必死で何か言わねば、何か言わねばと心に命令して、ようやく私の口からは擦れたような声が絞られるように出た。


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