あいつが死んだ……

 私は二十四歳の時に夫と結婚した。その時、夫は二十六歳。大恋愛の末の結婚だった。

彼は大学の先輩で、サークルが一緒だった事もあり、自然と仲良くなって、私が大学二年生になった時から交際がスタート。

 彼が卒業して、一流企業に就職してからも交際は続けられた。

私も後を追うように大学を卒業し、同じ会社に進み、そして、二年後にめでたくゴールイン。

「私と同じ「松本」の名字にならないか」と照れ臭そうに言った夫に、くすりと微笑んで、私は彼の伴侶となる事を決意した。

 会社の皆が祝福してくれて、式場は華やかで、本当に最高の結婚式だった事を覚えている。


 そして、私は寿退社。一主婦として、家事に勤しみ夫の助けとなる事を選んだ。

 それから約一年後。

 私は男の子を出産した。
 身長50cm、体重3150g。

 彼は大きな産声を上げて、この世に誕生した。

約十ヶ月もの間、私のお腹の中に入っていた新たな生命が、私というものから飛び出してこの世界に姿を現した事に、私は感動した。

何度も気持ち悪くなったり、偏食気味になったり、激しい激痛に耐えたりしながら産んだこの子は、まさしく宝物だった。

 大切に育てようと思った。


 仕事先から急いで駆け付けて来てくれた夫は、産声を聞くなり、我慢出来なくなって部屋に入り込んで来た。

そして、産まれたばかりの赤ん坊を見るなり、私に対して「よく頑張った」と涙ながらに声を掛けてくれた。


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