あいつが死んだ……
そして、もう一つ。
徹が五年生になった年に、夫は遠い地方に一年ほど出張に行っていて、全く家に帰って来ない時期があった。
私は一人の親でもあるけど、一人の女でもあるのだ。さすがに、淋しかった。
半年を過ぎた頃、電話を掛けて夫の声を聞いたら、あぁ、まだ半年もあるんだなって思ったら、ふいに涙が零れて来た。
私は受話器を置くと、何だか虚無感に襲われてしまい、目眩を感じて倒れてしまった。
その時、徹が私を支えてくれながら、「僕がお父さんの分もお母さんを支えるよ」と言った。
まだ小学生の徹が、私の事を気遣ってくれた。何て優しい子なんだろうと、私はその時涙した。
そんな事があってから、徹はいつも私を気遣うようになった。
中学校に入って、オーストラリア旅行に行ってからは、さらにその姿勢は多くなったように思う。
徹が中学二年生の時に行ったオーストラリア旅行は、とっても楽しかった。
あんまり一緒にいられなかった夫とも、四六時中一緒にいられたのだ。
それに、久しぶりに夫と一緒に遊んだりする事が出来て、徹は見るからに楽しそうだった。
私が、やっぱり日々が辛くて夫に「父親にしか出来ない事もあるんです」と意見して良かったなと思った。