あいつが死んだ……
 だが、オーストラリア旅行から帰って来て、夫がまた仕事中心に戻ってしまうと、徹は明らかにがっくりした様子だった。

多分徹は、こうなる事は分かっていたけど、ちょっとした希望を、お父さんはこれからは僕達と一緒にいてくれるんじゃないか、という希望を持っていたんじゃないだろうか。

旅行するなんて事は、僕達の事を真剣に考えたから、だから、きっと日常だって変わるはずなんだ、とそう思ったんじゃないだろうか。

 だけど、変わらなかった。夫はやっぱり仕事中心だったし、私達は今まで通りほっておかれた。

徹の落胆振りは相当のものだった。

それでも、徹は諦めずに夫との会話を保とうとした。

気を使って興味を引いて、恐らく僕はお父さんと一緒にいたいんだよ、と訴えていた。

だけど、夫はそれで満足していた。きっと、息子から話を振られて、よし、私の家庭は上手く行っているだなどと、思っていたに違いないのだ。

 それからも徹は私達夫婦に対して気を使っていた。親に対して気を使うなんて、やっぱり嫌だったと思う。

でも、元はと言えば私のせいなのだ。よく考えたら全ての元凶は私の撒いた種が原因だった。

 徹に気を使わせたのも、オーストラリア旅行に行くきっかけを作ったのも。


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