あいつが死んだ……
そして、私はそんな徹に甘えていた。気を使ってもらっている事を利用して、楽をしていたのだ。
駄目な母親だと思う。
私のせいで徹は自殺したのかもしれない。
他にもこんな事があった。
あれは、徹がいなくなる一週間ぐらい前だろうか。
昔からの徹の幼なじみの茜ちゃんが、徹の留守中に尋ねて来たのだ。
おてんばだった子供の時の面影はなく、女の子らしく綺麗に成長した彼女。
この頃の彼女は、徹に対する好意がありありと見てとれた。
それは、友達が抱く好意ではなく、女が男に抱く淡い恋心という形の好意だと私は感じていた。
私は彼女に、家の中に上がって、徹が帰って来るまで待つようにと言った。
彼女は私に挨拶をして、客間にある椅子にどかっと腰を降ろすと、こう言った。
「徹君はどこに出掛けてるんですか?」
「今、ちょっと頼み事をしてるのよ。ビデオテープが切れたから、ちょっと近くのお店に買いに行ってもらってるの」
私は、ドラマが好きで、これ面白そうだなと思ったドラマは、必ずビデオに取る。
今日、ふとビデオテープが無い事に気付き、「あー。買うの忘れてた」と嘆いていたら、徹が「じゃあ、僕が買いに行って来るよ」と買いに行ってくれたのだ。
私の言葉を聞いて、彼女は顔色を変えて私をキッと睨んだ。
「おばさん。言っておくけど、あたし達ってもう高校三年生なのよ。もう十分大人なの。
徹だって母親のおつかいになんて行きたいわけないじゃない。
ホントはあたし達と一緒に遊びたいはずなの。徹をいつまで縛り付けておく気なの?」
突然の彼女の変わり様に私はびっくりした。
何を言っているの? この子は?
縛り付けてる?
徹を?
まさか。
私のしている事は間違っているとでも?
「私はおつかいに行ってくれなんて、一言も言ってないわ! 徹が気を効かして行ってくれたのよ」
私は、思わず声を荒げていた。