あいつが死んだ……

「それがおかしいって言ってんのよ! どうして母親にまで気を使わなきゃいけないの?

徹はいつも、自分の親にさえ言いたい事も言えてないって事じゃない。そうよ! きっとそうよ!」

 腹わたが煮えくり返りそうだった。

「何よ! あんたなんかに言われたくないわ! あんたそうやって私と徹を引き離そうとしたいだけでしょ! あんたが徹と一緒にいたいだけなんでしょ!

分かってるんだからね! あんたの気持ちは。これ以上、徹に付き纏わないで!」


……あの時の記憶が私をさいなます。

 なんて馬鹿な事をしたんだろう。


そのすぐ後に、徹は帰って来たのだ。

そして、言い争いをしている私達を見て、「何してんだよ。二人とも」と悲しそうに言った。

 重苦しい空気が流れた。

茜ちゃんは、何も言わずに立ち去っていった。

 こんな現場を見られた事への驚きと、自分の馬鹿さ加減への後悔と情けなさが後に残った。

「疲れてるんだよ。母さん」

 徹が放った優しい一言も私の心には届かなかった。


 あれから二週間。

 徹は死んだ。

 自殺だった。

 その原因は私にあるような気がしてならない。

思えば茜ちゃんの言葉も、でたらめなんかじゃなく、的を得ていた気がした。

 私は徹から離れられなかった。夫がいない寂しさを徹に押し付けていた。


 徹に甘えていた。それが当たり前だと思っていた。

どうして、あの子の事をもっと考えてあげられなかったんだろう。

 私は馬鹿だ。

 母親失格だ。

 私の目からは涙がどんどん溢れて来る。だけど、どんなに涙が流れたって、徹はもう戻って来てはくれないのだ。

もしかしたら、悲しそうな顔をしていたあの時に、自殺を決意したのかもしれない。


 私の……せいだ……。


 お腹を痛めて産んだ子を、大事に育てて来たと思っていた子を、徹を、私のせいで死なせてしまったのだ。


私は絶望という闇に呑まれていた。



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