あいつが死んだ……
それは、深夜の男子部屋のある一室での事。
あたしは何人かの女子と、徹や剣之介達がいる部屋に遊びに行き、そして誰が買って来たのか、そこでみんなでお酒を飲んでいた。
先生にでも見つかったら大変な事になる。
でも、修学旅行もこれで終わりなんだ、という何か特別な感覚が、あたし達のテンションをハイにしていた。
先生の見回りも何とかやり過ごして、時間が過ぎて、お酒も話も進みまくった頃。
話の話題はやっぱり恋の話で、あたしはみんなに「どうなのよーっ」とつっつかれまくり。
「だぁかぁらっ! どっちもただの友達だって!」とあたしが半ば怒りながら言うと、彼女達は今度は剣之介に狙いを定めた。
「で、剣ちゃんは茜の事、どう思ってるの?」
「もう止めてってー!」
あたし達女子が騒いでいると、剣之介が酔いが回ってとろんとした目に光を宿して、ろれつの回っていない口調で言った。
「おれぁ、茜だ好きだぁ」
その一言で、慌ただしかったその場は一瞬しんと静まり返った。
しかしそれも一瞬で、すぐにひゅーひゅーという歓声があたし達を騒ぎ立てる。
あたしは突然の告白に、顔を真っ赤にして、俯いている事しか出来なかった。
どうしたら良いのか、自分でも分からなかった。
そこで意外にしっかりした口調で、徹が放った一言。
「そうだったのか。俺も応援してやらないとな」
その徹の言葉を聞いた途端、あたしの胸はズキリと痛んだ。
思わず泣いてしまいそうになるほど、激しい悲しみが襲って来たのだ。
その時は分からなかったけど、それはまさしくあたしが徹を好きだという事に他ならなかった。
男として好きなんだって、あたしの本能が告げてた。
そして、そんな大きな波を立てた修学旅行は終わった。
剣之介は、あの夜の事は全く記憶がないらしく、何か迷惑な事をしたんじゃないかと、しきりにみんなに謝っていた。
だけど、あたしと徹の心の中には、その事がしっかりと残ってしまっていた。
あたし達はもはや、完全にお互いを異性として認識してしまっていた。