あいつが死んだ……
そんなこんなで高校生活も残りわずかとなった。
あたし達は部活を引退して、それぞれ進路を決める身となる。
あたしと剣之介は、陸上とサッカー部で大学の推薦が決まっており、けっこう自由だった。
だけど一人、徹だけは進路は決まっていなくて、ミュージシャンになるんだと意気込んでいた。
実は徹は、あたし達が二年生になった時、ボーカルをやっていた引退した先輩に代わってボーカルをする事になった。
人数が足りなくてしょうがなくという事だったのだが、当の本人はボーカルをやり出して、歌う事に快感を得るようになった。
歌声ははっきり言って、それほど上手いという感じはしなかったが、歌っている時の徹の顔は実に清々しい顔をしていた。
いつだったか、徹はあたしに向かってこう言った事がある。
「いつか、大観衆の前で歌ってみたいな」
それは、徹が初めて語った夢だった。
正直な気持ち、無理だろうなと思っていたが、大好きな徹が夢を語る姿に、あたしが変なちゃちゃを入れられるはずがない。
「うん。徹なら出来るよ」
あたしはそんな事しか言えなかった。
それからさらに数日が経って、あたし達三人で落ち合う事があった。
徹は珍しく、落ち込んでいるようだった。
理由を聞くと、お父さんから進路の事を激しく反対されたという事だった。
あたしは特に驚かなかった。良い機会とさえ思った。徹が痛い目を見るよりは、その方が良いと思った。
でも、徹が「しょうがないのかなぁ。親父に反対されちゃったからなぁ」と言うと、あたしは、それは違うと思った。
「徹。あんた、父親に言われたぐらいで諦めちゃうの? あたしに語ってくれたのはその程度の夢だったの?」
何だか情けないと思った。あたしはまだ徹の事が好きだったけど、いや、だからこそ、徹には男らしくいて欲しいと思った。
矛盾しているようだけど、それがあたしの気持ちだった。