あいつが死んだ……
「親父の言う事は正しいよ。どんなに練習したって、上手くならないし。もう、夢を見る時期は終わったんだ」
そう答える徹は悲しそうな顔をしていた。
それは、夢と現実は違うんだという、苦汁の決断をした後の徹の顔だったのだけど、その時のあたしは全く気付かなかった。
ただ、父親の言いなりになってるだけとしか思わなかった。
「そんなのやってみないと分からないじゃない」
「うるさい。気休めなんかいらないんだよ!」
あたしの言葉に徹は激しく怒った。その顔には、「僕は歌が上手くない事を知っているくせに」という、冷ややかな視線が込められていた。
あたしはそれを見て、恥ずかしくなった。前に、言葉だけの応援をしたあたしが恥ずかしくなった。
だけど、何も知らない剣之介は違った。
徹の顔を殴って、「茜はお前のためを思って言ってるんだ。茜の気持ちを何だと思ってる」と怒鳴った。
あたし達の間で、何かが壊れていた。
それからのあたしは、どこかおかしかった。
徹の家に遊びに行ってみた時も、母親のおつかいに行ったと聞いて、両親の言いなりになってるんじゃないかと、キレて徹のお母さんと喧嘩になってしまった。
その日から三日が経って、徹に会った時もあたしはおかしかった。
「あの日はごめんね」
「良いよ。気にしてない」
そんな会話をあたし達はしていた。
徹の顔はいつもと同じで、本当に何も気にしてないように見えた。
「ところで、剣之介の気持ちはどうする気だ? あいつが思いをぶちまけてから三年も経つじゃないか。そろそろ何とかしてやらないと」
あたしは、驚きで目が飛び出しそうだった。
徹はあたしの気持ちに気付いてなかったのだろうか。
この三年間は何だったのだろうか。
思いの一つも伝わっていなかったのか。
気付けば、あたしは声を上げて泣いていた。
「どうしたんだよ? 大丈夫か?」
「あたしが好きなのは……徹なのに……」