あいつが死んだ……

 今度は徹が驚いた顔を見せた。そして、悲しそうな顔をする。

「何。その顔。あたしの事嫌い?」

「いや、好きだけど……」
「じゃあ、どうしてそんな顔するの?」

「だって、剣之介は茜の事好きなんだぞ? 今でも。あいつの気持ちはどうなる?」

 あたしのイライラは頂点へと達した。

「そんなの関係ないじゃない! 好きだったら、周りとか友達がどう思ってようと関係ないじゃない!」


 激しく怒鳴るあたしを徹は冷ややかな目で見て、言った。

「友達が関係ないとか言うなよ。今の茜は嫌いかな。すぐに怒るし、適当な事は言うし、僕の事なんか考えてもくれない」

 それを聞いて、あたしの堪忍袋の尾はプチンと切れてしまった。

徹の頬をパシンと平手で叩いて、「もう良い! あんたなんか大嫌い!」と言って、その場から逃げ帰ってしまった。


 それから四日が経って、徹は行方不明に。さらに一週間経って、遺体が発見された。

今、思えば何てひどい事をしてしまったのだろうかと思う。

きっと徹は、あたしや剣之介にさえ気を使っていたんだと思う。

子供の頃からみんなが徹に集まって来たのも、優しいから。人の頼みを断れなかったり、進んで行動したのも優しさから。

徹だって色々辛い事もあったのに、あたしは自分の事しか考えてなくて。

好きな人が助けを必要としてたのに、怒ったり喧嘩したり、何も気付いてやれなかったばかりか、さらに追い詰めてしまった。

 後には後悔ばかりが残った。

あたしに、徹の半分でも優しさがあったら、こんな結果にはならなかったかもしれないのに。

 まさか、自殺するなんて……。

あたし、生きてく価値なんてあるのかな?



 参列者の中に紛れながら、あたしは下を向いて流れる涙もそのままに、そんな事を思っていた。


< 30 / 31 >

この作品をシェア

pagetop