あいつが死んだ……
今の世の中、崩壊しているような家庭が多い中、私の家族はまさしく幸福な家族だったように思う。
それは、やっぱりいつも家にいない私なんかの力ではなくて、間違いなく息子の力だったのだろう。
高校も三年生になると顔付きもりりしくなって、しっかりと一人前の男らしい、立派な貫禄が出て来た。
世間では、大学受験やら就職活動やらで忙しい時期。
我が家でもそれは例外ではないだろうと思い、私は力になれる事があればと、息子に進路の事を聞いてみた。
「高校卒業したらどうするんだ?」
私が尋ねると、徹はちょっと言いにくそうな、少し恥ずかしそうな顔をした。
「どうした? 何かやりたい事はないのか?」
私が重ねて尋ねると、徹は覚悟を決めたようにふぅっと息を付き、いつになく真剣な表情になって口を開いた。
「父さん。実は僕……ミュージシャンになりたいんだ」
私は息子の口から出た言葉に驚いた。