ホワイト・メモリー
小林功(こばやしいさお)は、そうした春の一行事から開放されても良い歳になった。大手の、いわゆるIT企業というところに就職して五年目になる。
新入社員の面倒は、二年目、三年目の社員がみるのがうちの会社の慣わしで、そこに「飲みたい」という理由だけで集まった三十代の先輩社員や暇を持て余している課長部長クラスの人間が加わって新入社員の歓迎会が行われる。
五年目の社員というのは、いろんな場面で立ち回りが面倒なので、できるだけこういった行事には参加しないのが普通である。仮に新入社員の歓迎会のような飲み会に参加した場合、上司や先輩がいる前で偉そうなことをべらべら喋るわけにもいかないし、かといって、黙ってばかりいては新入社員に対して面目が立たない。まして、飲み屋から駅までの道のりをプチ大名行列のように列を成して歩くのはゴメンだ。
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