ホワイト・メモリー
「伝えなければならないセンテンスの中に含まれる文節の数だけ、といったイメージでしょうか。伝言ゲームは必ずしも人が縦に並んでやらなければならないということはありません。縦に並ぶから間違いを犯すのです。横に並んでみたらどうでしょう。そして、一人一文節を担当するのです。文節をつなげれば正確なセンテンスになるはずです」

「それでは伝言ゲームではなくなってしまっていませんか?」

敵陣の一人が鋭いツッコミをする。しかし、功は冷静だ。

「その通りです。伝言ゲームではありません」

「あなたは冒頭で“SOXは伝言ゲームだ”とおっしゃったじゃありませんか」

「はい、言いました。つまり、SOXは伝言ゲームではないということです」

「それじゃ、本末転倒ですよ」

「いえ、私の発言に矛盾はありません。少なくとも現状を見る限りSOXは伝言ゲームです。しかし、そもそも膨大な情報を間違いなく伝えていくなんて無理があるんです。要所要所に承認者や責任者を配置しても、形式だけで、本質は改善されません。だから、SOXは伝言ゲームであってはならないと提唱しているのです」

「もうええ。終わりや」

コンペは、塚越の一言で幕を閉じた。
他のメンバーはまったく功と目を合わせることもなく会議室を出て行ってしまった。唯一、菊池だけが「やりましたね」と小さく声をかけてくれたが、この言葉もまた後輩に励まされているようで自分が情けなく思えてくる。
最後の塚越の一言はどういう意味だったのだろう。コンペには勝ったのか、それとも負けたのか。自分のしたことは余計なことだったのか。いや、言っていることは間違ってはいないはずだ。いろんな気持ちが功の心を支配する。やるだけのことをやって、それをいまさら後悔しても仕方がないと自分に言い聞かせながらも、功はとても不安だった。
外に出ると、オレンジ色の夕日がオフィス街にサラリーマンたちの長い影を作っていた。その光景は、今の自分の気持ちには皮肉とも思えるくらい、美しいものだった。
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