ホワイト・メモリー
「困ったもんだな」

功はコンペの帰り、田口と同じタクシーに乗った。車内に差し込む夕日が田口の顔の皺に影を作る。苦労と呼ぶに相応しい皺である。

「あれはチームとしての意見ではない。君の意見だ」
「申し訳ありません。でも、塚越さんはああいう意見を望んでいたと思ったのです」
「出る杭は打たれるぞ。今日のコンペは田辺のプレゼンだけで十分だったんだ。いやぁ、それにしても本当に困った」

田口はそう言って少し笑みを浮かべた。きっと呆れているのだと功は思った。

「軽率でした」
「そうじゃない。エレベータの中で塚越さんに言われたよ…」
「君の今の仕事を外して、こっちによこせってな」
「君が名指しされてしまっては、田辺の面目が丸つぶれじゃないか。なんて説明すればいい?」
「はあぁ〜、ほんとに困った」

田口は深くため息をつき、功を気遣って窓の外に目をやった。
功の目は赤くなっていた。
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