ホワイト・メモリー
功は毎晩ジョギングすることを趣味としていた。東中野のアパートから都庁までは、二キロメートル程で体力的にも時間的にも丁度良かった。昼間はサラリーマンやOLや観光客が行き交う場所だが、深夜の都庁付近は昼間が嘘のように人影がない。高層ビルの谷間を自分の庭のように走ることがとても心地良いのだ。
しかし、今夜は歓送迎会シーズンという不意打ちをくらってしまった。自分の楽しみを邪魔されたようでいい気がしない。いつも見かけるスケボーの少年達も、酔っ払いをウザく思っているに違いない。
「もしかしたら、うちの会社の社員もいるかも知れない」と思い、帽子を深くかぶり直して、少しペースを上げて走る。功の会社は品川にあるが、新宿で飲んでいないとも限らない。
信号が赤に変わる。いつもなら車が来ないことを確認し突っ切るところだが、何か変な視線が功の足を止めた。
さっき追い越してきたスーツの集団が信号待ちの功に追いついてきた。
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