ホワイト・メモリー
去年、功の会社に小林雄一という人間が中途採用されてきた。「yuichi」の「y」は、「isao」の「i」よりも後である。しかるに、小林ランキングNo.1の座は守られてしまった。
雄一もまた功と同じ会計コンサルで、別のチームの会計リーダーを務めていた。先日のコンペをドタキャンした張本人である。後で聞いた話であるが、コンペを欠席した理由というのがまた信じられないもので、持病の腰痛の治療に行っていたというのだ。なんでも、そこの針治療は有名らしく、「やっと予約をとれた日が、コンペの日と重なってしまったんです」と雄一は弁解した。
えてして中途採用されてくる人間は、使えない場合が多い。そもそも、一つの会社で自分のすべきことをまっとうできずに、他の会社に漂着するような人間なのだから、当然といえば当然である。
「前の会社は自分のことを評価してくれなかった」などというのは、おおよそ言い訳に過ぎない。火の無い所に煙は立たない。評価されないのには、それなりの理由があるはずだ。
塚越の性格からして、こういう人間は必要としていない。結局、功と雄一はトレードされた。三ツ星工業での仕事の初日、塚越は功の肩を叩きながら言った。
「はじめから小林さんには来てもらいたいと思ってたんやけど、別の仕事に就いとるっちゅうからいろいろ戦略を考えとったんや。けど、もう片方の小林がヘマしてくれたから助かったわ」
「僕も小林先輩とまた一緒に働けるんで良かったですよ」
菊池も塚越に相槌して言った。
功たちのプロジェクトメンバーは、三ツ星工業の経理財務部のフロアに場所を借りて仕事をすることになった。塚越と相性がいいと理由で、功の席は塚越の席の目の前ということになった。CFOのネームプレートが功を威圧する。しかし、緊張感のある仕事環境というのは嫌なものではない。功は、ここでまた充実した仕事ができると期待していた。
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