ホワイト・メモリー
一方、雄一の方はというと、プロジェクトリーダーとしてのプライドは傷つけられるは、新しい仕事を覚えるのに忙しいは、さらには持病の腰痛まで悪化して、心身ともにズタボロの様子だった。そんな状態で仕事がうまくいくはずがない。
雄一のいるプロジェクトは、次第に社内でも問題プロジェクトとして扱われるようになっていった。
功と雄一がトレードされて半年ほど経ってから、雄一のいるプロジェクトに関するメールが功に届いた。見慣れない件名だったので、すぐにオートコンプリートの仕業だと分かった。宛先は統括マネージャの田口で、功の名前はCCに入っている。このメールが功に届いているということは、おそらく雄一にはこのメールが届いていない。CCの部分をスクロールしてみると、やはり「yuichi」の名はなかった。「気付かなかったことにしよう」と思う気持ちと、罪悪感が功の心の中で葛藤を始める。功はとりあえずメールの内容に目を通した。
普通は、他のプロジェクトのメールになんてお目にかかることはできない。コンサルという仕事は、クライアントの重要情報を扱う仕事だ。無論、些細なメールのやり取りであっても部外者には知られてはならない。こんなレアなメールを読むことができるというのは、小林ランキングNo.1の功にだけ与えられた特権と言ってもいい。普段、迷惑を被っているのだからこのくらいの権利はあっても良いだろう。雄一のいるプロジェクトは、問題を抱えていることで有名だった。他人の不幸には好奇心をそそられる。それが人間の性というものだ。

―― 田口様
青田物産プロジェクトの北村です。
一週間前に稼動したSISの不具合について報告いたします。
一昨日SISの不具合が発見され、昨日より正常に動いておりますが、それ以前の約一週間分のデータが所在不明のままです。担当の者に調べさせましたが、なくなったデータを探すことは非常に難しいとのことです。 ――
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