ホワイト・メモリー
もう半年も前のことではあるが、SISというシステムについての記憶を取り戻すことにさほど時間はかからなかった。たったこれだけのメールの内容で、功はピンときた。
所在不明の一週間分のデータ…なぜ、一週間もの間、彼等は気付かなかったのか?
問題を解決するヒントはここにあると、功は直感的に思った。

功の推論はこうである。
仮にデータがまったくシステムに入っていないとすれば、ユーザはすぐに気付くはずである。なぜならば、ユーザが普段目にしているパソコンの画面は、データそのものだからである。しかし、彼等はすぐには気付かなかった。言い方を替えれば、普段目にしている画面にはデータが存在していたということだ。ところが、SISにはそのデータが存在しない。SISは戦略的情報システム(Strategic Information System)と訳されるように、管理職の人間だけが照会することできるデータベースである。一般ユーザが使用するデータベースとは分離されているので、片方にはデータが存在するのにもう片方には存在しないという事態が発生する可能性がある。要するに、一般ユーザが使用しているデータベースからデータを抜き出して、そのデータをSISに投入することでこの問題は解決するはずだ。

功は、いらない紙の裏側に、問題の状況を推察しながらペンを走らせた。それは、誰かに説明するための資料としてはあまりにも乱暴なメモだ。しかし、功にとって、きれいにメモを残すことは重要ではなかった。重要なのは、出る杭の戦闘体制を整えることなのだから。

その日の午後、田口から返信メールが届いた。相変わらず、功の名前はCCにあって、雄一の名前はなかった。

―― 北村さん
田口です。所在不明の詳細を報告して下さい。 ――

確かにそうだ。今起きている問題を「所在不明」という言葉でひとくくりにされてしまっては、クライアントはたまったもんじゃない。あるはずのものがないのだから、そこにはそれなりの理由が必要だ。そもそも、所在不明とはあまりにもオーバーな表現ではないか。まさに灯台下暗し。彼等が必要としているものは、きっとユーザの目の前にあるに違いない。功は自分が書いたメモを見ながら、問題に立ち向かいたい気持ちを抑えきれないでいた。
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