ホワイト・メモリー
「青田物産の件ですが、僕に調査させていただけないですか。SISは以前、僕が担当していた部分です。データはなくなったわけではありません。分散しているだけなんです」
活字を追う田口の目の動きが止まる。
「三ツ星工業の仕事はどうするんだ?」
田口は、なぜそのことを知っているのかとは聞かなかった。おそらく、すぐにどういうことかを察知したのだろう。
「今の仕事に迷惑をかけるつもりはありません。休日の土日か、もしくは平日の深夜でも構いません」
「調査っていっても、一日や二日ではどうにもならんだろ。既に現地のメンバーがだいぶ時間をかけて調査してくれているんだ」
「いえ、実は、机上での調査は済んでいるんです。あとは、自分の考えが正しいかどうかを検証するだけですので、それほど時間はとりません」
功は汚いメモをバックから取り出し、田口の机の上に置いた。そのメモはとても他人が読めるようなものではない。しかし、書いてあることを理解してもらう必要はないのだ。ただ、自分はなんの手掛かりもなく乗り込むのではない、ちゃんと考えがあって乗り込むのだということを分かってもらえればいい。
「僕の考えが間違っていれば、調査はそこで終わりです。僕の考えが正しければ、SISの修正するまでに二日もあれば十分です」
すると田口は徐に読んでいた新聞を半分に折って、机の上の、功のメモの上にその新聞を置いた。そして年金問題の記事を指差してこう言った。
「これまで厚生省や社保庁は、どんなにお願いしても国民の年金の情報を教えてくれなかったそうだ。領収書だのなんだのをそろえて、やっと動き出すのが日本の政府だ。日本の政府だけではない。普通の人間はそうなんだ。それなのに君は、誰も頼んでもいないのに勝手に動き出す。不思議な男だ」
功は田口に怒られたのだと思った。上司の指示もなしに勝手な行動をとるなということを、きっと田口は言っているのだ。
功は一瞬にして自分の発言を振り返った。要するに、やりたいようにやらせてくれということを自分は言っているのだということに今更ながら気付いた。だいたい他人の問題を引き受けて、なにが楽しいことがあるだろうか。功は黙ったままだった。
活字を追う田口の目の動きが止まる。
「三ツ星工業の仕事はどうするんだ?」
田口は、なぜそのことを知っているのかとは聞かなかった。おそらく、すぐにどういうことかを察知したのだろう。
「今の仕事に迷惑をかけるつもりはありません。休日の土日か、もしくは平日の深夜でも構いません」
「調査っていっても、一日や二日ではどうにもならんだろ。既に現地のメンバーがだいぶ時間をかけて調査してくれているんだ」
「いえ、実は、机上での調査は済んでいるんです。あとは、自分の考えが正しいかどうかを検証するだけですので、それほど時間はとりません」
功は汚いメモをバックから取り出し、田口の机の上に置いた。そのメモはとても他人が読めるようなものではない。しかし、書いてあることを理解してもらう必要はないのだ。ただ、自分はなんの手掛かりもなく乗り込むのではない、ちゃんと考えがあって乗り込むのだということを分かってもらえればいい。
「僕の考えが間違っていれば、調査はそこで終わりです。僕の考えが正しければ、SISの修正するまでに二日もあれば十分です」
すると田口は徐に読んでいた新聞を半分に折って、机の上の、功のメモの上にその新聞を置いた。そして年金問題の記事を指差してこう言った。
「これまで厚生省や社保庁は、どんなにお願いしても国民の年金の情報を教えてくれなかったそうだ。領収書だのなんだのをそろえて、やっと動き出すのが日本の政府だ。日本の政府だけではない。普通の人間はそうなんだ。それなのに君は、誰も頼んでもいないのに勝手に動き出す。不思議な男だ」
功は田口に怒られたのだと思った。上司の指示もなしに勝手な行動をとるなということを、きっと田口は言っているのだ。
功は一瞬にして自分の発言を振り返った。要するに、やりたいようにやらせてくれということを自分は言っているのだということに今更ながら気付いた。だいたい他人の問題を引き受けて、なにが楽しいことがあるだろうか。功は黙ったままだった。