ホワイト・メモリー
土曜日の朝は嫌味なほどに良い天気だった。こんなに絶好な休日に功はスーツを着て、ガラガラの電車に乗っている。ちほらと酔いつぶれた人たちが居眠りしている。休日にスーツを着ている人間と、電車の中で酔いつぶれている人間と、どちらが正しい生き方なのだろうか。答えが出ない問題を取り留めもなく考えることは意外といい暇つぶしになる。
青田物産のある大手町までは、8:13に東中野から総武線に乗って、8:34に飯田橋で東西線に乗り換える。そうすると大手町駅には8:40に着く。地上に出る場合は、A2の出口が最適だ。
大手町駅には、東西線、千代田線、半蔵門線、丸ノ内線が乗り入れており、地下通路は非常に複雑である。功は新人の頃、大手町で開かれたセミナーに参加したときのことを思い出す。はじめてのおつかいに出た子どものように泣きたくなったものだ。
功は大学から東京に出てきた。東京での生活は9年目になる。大学生活を通して、新宿や渋谷など山の手線の西側の地理にはそこそこ詳しくなったが、学生が大手町にくることはまずなかった。唯一、東京ミレナリオを見物しに来たことがあっただけだった。それまで東京はファッションだのエンターテイメントだのグルメだのと、ごちゃごちゃした街だという感覚しかなかったが、社会人になってはじめて山の手線の東側あるいは内側が本当の東京なのだということを知った。
そこはスマートなスーツを着た人間が高そうなビジネスバックを片手に行き交う街だった。あっちのビルから、こっちのビルから、あるいは地下から人間が出てきては、またどこかに消えていく。その人の流れは見事なまでにスムーズだ。まるでそれぞれの人間の歩く場所が決まっているかのように、決して他人と接触することはない。コンクリートの空間に、白と黒を基調とした服装の人間たち。その光景は一見無機質なものに感じられるかも知れないが、よく観察すると彼等は実に生き生きとしていことに功は気が付いた。
彼等はちゃんと汗をかいている。それは大切なもののために流す美しい汗だ。そして彼等はちゃんと目的を持っている。なんの迷いもなく進むべき方向へ歩いているのだ。
青田物産のある大手町までは、8:13に東中野から総武線に乗って、8:34に飯田橋で東西線に乗り換える。そうすると大手町駅には8:40に着く。地上に出る場合は、A2の出口が最適だ。
大手町駅には、東西線、千代田線、半蔵門線、丸ノ内線が乗り入れており、地下通路は非常に複雑である。功は新人の頃、大手町で開かれたセミナーに参加したときのことを思い出す。はじめてのおつかいに出た子どものように泣きたくなったものだ。
功は大学から東京に出てきた。東京での生活は9年目になる。大学生活を通して、新宿や渋谷など山の手線の西側の地理にはそこそこ詳しくなったが、学生が大手町にくることはまずなかった。唯一、東京ミレナリオを見物しに来たことがあっただけだった。それまで東京はファッションだのエンターテイメントだのグルメだのと、ごちゃごちゃした街だという感覚しかなかったが、社会人になってはじめて山の手線の東側あるいは内側が本当の東京なのだということを知った。
そこはスマートなスーツを着た人間が高そうなビジネスバックを片手に行き交う街だった。あっちのビルから、こっちのビルから、あるいは地下から人間が出てきては、またどこかに消えていく。その人の流れは見事なまでにスムーズだ。まるでそれぞれの人間の歩く場所が決まっているかのように、決して他人と接触することはない。コンクリートの空間に、白と黒を基調とした服装の人間たち。その光景は一見無機質なものに感じられるかも知れないが、よく観察すると彼等は実に生き生きとしていことに功は気が付いた。
彼等はちゃんと汗をかいている。それは大切なもののために流す美しい汗だ。そして彼等はちゃんと目的を持っている。なんの迷いもなく進むべき方向へ歩いているのだ。