お嬢様の苦悩。
「Entschuldigen Sie」


ぶつかった男性の謝罪がドイツ語である、と理解するのにしばし時間が掛かった。

国際色豊かなパーティーで、英語やドイツ語にイタリア語まで聞こえていた。

恵理夜の家は極道であるが、表向きにその道との関係を明かしている人間は誰一人参加していなかった。

参加していても、仮面の下ではわからない。

素顔は明かさない――つまり、そこにいる者たちは皆同じ立場で接することが許された会であるということが伺えた。

綺麗《クリーン》で正式《フォーマル》なパーティー。


その非日常的な空間に、恵理夜の表情は優れない。


この空間から恵理夜を守り、完璧にエスコートする――それが執事である彼のプライドだった。

日常から離れた今だからこそ、試されているのを痛烈に感じた。
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