お嬢様の苦悩。
「どうぞ」


春樹は、グラスを恵理夜に差し出した。

その流れで、恵理夜の耳元に囁いた。


「……先ほどから、不穏な視線を感じるのですが」

「私だけを見ていて」


恵理夜は、そう言い放った。

しかし、その目線は春樹の肩の先にある。


「直接見ては駄目。視線はどこからかしら」

「入り口の方からです」


恵理夜は、ドミノマスクの下の瞳に警戒の色を滲ませてその方向を確認する。

二人は、こう言った不穏な空気に敏感だった。
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