ヒトノモノ
あたしは啓介をギュっと・・・抱きしめた。
さっきまで耐えていた涙が一気に溢れていく。
泣いているのを気付かれないように・・・
声を殺して・・・
啓介の胸に顔を当てて・・・
《帰らないで》なんて、不倫相手が言ってはいけない言葉だってわかってる。
でも、それを啓介は受け入れてくれた。
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どれくらい啓介に抱きしめられていただろう・・・
あたしの涙は、もう止まっている。
啓介はずっとあたしの髪を撫でている。
・・・あ・・・奥さんに連絡しなくていいのかな・・・
これは、あたしの余裕。
でも。連絡いれない方があたし的には都合がいい・・・
無断外泊だなんて、《浮気してますよ》って言っているようなものだし。
あたしの中で、また別の・・違った感情が湧き出てきた。
啓介は、奥さんよりあたしを愛している・・・
これを確信した途端、あたしが奥さんよりも優位にたった・・・
だったら・・・奥さんにあたしの存在を知られたい・・・
貴女より愛されている女がいるんですよ?って知ってほしい。
そしたら・・・別れてくれるんじゃないか・・・
ブルっと身体が震える。
妻より上に立った愛人は、タチが悪い・・・
自分で自分が怖くなる・・・
啓介は・・・今腕の中にいる女がこんな事を考えているなんて知らないだろう・・・
ごめんね・・・これも全て、貴方を愛してるからなの。
あたしは、自分から啓介の服を脱がせていった。