ヒトノモノ
啓介・・・
お店の中からお会計を済ませた数人の団体が出てくる。
啓介はまだあたしに気付かない。
啓介の隣には大学時代の仲間であろう男の人がいる。
そして、啓介は後ろから何やら声をかけられたのか身体ごと振り返り、ポケットから財布を取り出して、その人に渡した。
その手渡した相手は、小柄で、肩までの真っ黒なストレートヘアー、顔も特別綺麗ではなく、ごく普通で。
そして、全体的にベージュ系で統一された服装。清楚・・というより地味な印象を受ける。
・・この人が・・・奥さん?
急に胸が苦しくなった。
「木村さん!!」
そんなあたしをよそに田中君は啓介に声を掛ける。
・・・やだ・・・なんで・・・会いたくない・・・奥さんといるところなんて見たくない・・
でも、あたしの視線は下がる事は無く、しっかりと啓介を見据えていた。
あたしに気付いた啓介は明らかに動揺していた。
「お・・おぉ!田中・・安達・・こんな所で・・偶然だな・・」
「たまたま買い物に出かける途中だったんです。木村さんは?」
「俺は・・・大学時代のツレと久々に飯食いに・・・」
啓介はあたしの顔色を窺うような様子で言った。
あたしは、後ろに隠れるようにいた人をチラっと見て、啓介に言う。
「木村さん、そちら奥様ですか?」