ヒトノモノ
奥さんはこの間のように地味目の格好だった。
この間と違ったのは、
首元、指、手首のド派手な装飾品。
その手には、100万はするであろうバッグ。
そして・・・勝ち誇ったような表情だった。
啓介が奥さんに近づいて、何やら話をしている。
奥さんは悪びれる様子もなく、フロアをぐるっと見渡して、あたしに視線を向けた。
啓介の静止を無視して、一歩一歩、笑みを浮かべながらあたしに近づく。
あたしは、覚悟をくくって、その姿を見続けた。
あたしの前に来ると、ニッコリ笑って言った。
「この間はどうも・・・」
「こんにちは」
あたしは、立ち上がり、奥さんを見下ろして挨拶をした。
隣に居た田中君も声を掛ける。
「こんにちは!この間はちゃんとご挨拶できませんで・・・」
奥さんは田中君にも視線を向ける。
「いえ・・・それより・・あなたがちゃんと彼女を捕まえていないからよ?」
「はい?」
田中君はその言葉が全くわかっていない。
そして奥さんはあたしの耳元に口を近づけ言った。
「ねぇ、知ってる?愛人ってセックスだけなのよ?歳をとれば、あなたは愛人にすらしてもらえなくなるの。でもね。妻は歳をとっても妻なのよ?」