ヒトノモノ
ネクタイをゴミ箱に放り投げた事にも驚いたけど、《転職》という事にも驚いた。
「転職って当てはあるの?」
「実は・・営業先から、引き抜きかかってて・・。条件もいいんだ。ソレを受けて、ある程度金が溜まったらココを出ようと思う。」
「ココを出る??自宅に戻るの??」
「そんな訳ないだろ?優子もココを出て一緒に住むんだよ。」
「あ・・たしも??」
「そうだよ。当たり前だろ?」
啓介はフフっと笑った。
あたしは啓介の胸に飛び込んだ。
「啓介・・・嬉しい・・・」
「俺には優子しかいないから・・・」
「うん。あたしも・・啓介だけ・・」
「ただ、しばらくは俺無一文だから、迷惑かけちゃうけど・・」
「わかってる。今はそれでも啓介と一緒にいたいの・・・」
あたしは少し背伸びをして自分からキスをした。
啓介もそれに優しく応えてくれる。
一度重なった唇は離れる事はなく、次第に深いものへと変わった。
啓介の指が、あたしのシャツのボタンにかかった時。
奥さんの言葉がフラッシュバックした。