ヒトノモノ
「ねぇねぇ、知ってた?木村さんね・・・」
《木村さん》というフレーズに勝手に反応する。
同期の子達が木村さんの話をしだして、コッソリ聞き耳を立てた。
「木村さんって、結婚してるんだって!!」
あたしは、その言葉に完全に打ちのめされた。
・・・結婚してるの・・・?
木村さんが・・・?
ちゃんと立っているのに、足元だけが急に落下したような感覚に陥った。
だから・・・やっぱり・・・アレは《一夜の過ち》だったんだ。
自分のパソコンの前に座り、無意識にキーを叩く。
間違えてはいけないデータを入力いるのに、神経は向かいに座る木村さんに向く。
データを入力し終えて、木村さんに確認をしてもらう。
仕事とはいえ、こんな時に木村さんに顔を合わせたくない・・・
「あの・・・木村さん・・・コレ確認お願いします」
・・やっぱり木村さんはあたしを見てくれない。
視線を下げたまま、パソコンだけを見ていた。
「あぁ。ちょっと待ってて・・・って、コレ・・先月のデータじゃないか?」
「・・え??あ・・すみません!!やり直します!!」
あたしは慌ててデータを受け取り、デスクに戻ろうとした。
「あ・・。安達さん・・ちょっといいかな」
木村さんはあたしの喉元を見て、小さな声でそう言った。