ユメみる夢みる僕のキセキ




 この街は、この学校の裏にある川を境に南側を織姫町、北側を彦星町と二つに分かれている。今日出てきた家は南側の織姫町、前まで住んでいたはずの家は北側の彦星町。
 優実が学校で評判の店があると言い、そこは今住んでいる家とは逆の彦星町の方だった。

「あー、あそこだよ!」

「へえ、けっこう大きいわね」

 横でギャーギャー騒いでいる女二人は、目の前に立つ『洋膳屋』と書かれた大きな看板がある古い木造の定食屋の前で立ち止まり、外にあるメニューを見て試行錯誤している。
 それは苛立つだけで、どうでもいいが……
 しかし、この建物どっかで?

「雫ぅー、早く入ろうよー!!」

「は?」

 声がして気がつけば、横でメニューを見ながら騒いでたはずの二人は、すでに店の入り口に居て優実が手招きをしていた。勝手な連中だ……
 店の中に入ると、エプロンを着たおばさんが『いらっしゃい』と笑顔で接客にきて、俺達はそのまま空いている禁煙席に案内されメニューを渡された。
 優実と文歌はさっき外であれだけメニューを見ていたくせに、まだ決まっていないらしく未だに迷っている。
 しかし、店の中を見渡して思ったが、やはり見覚えがある。
 俺はここに来た事があるのか?
 だが、それはおかしい。前まで住んでいた彦星町である此処には、こんな定食屋がある事すら知らなかった。中学の頃は、別の街の施設にいた。
 ということはそれ以前……?

「すいませーん、注文おねがいしまーす!」

 悩んでいる真っ最中に、注文を決めた優実と文歌が入り口にいたおばさんを呼び出し、オムライスやらチョコレートパフェやらの食べたい物を次々に言っていき、俺の疑念をかき消した。
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