【短編】ヘタレ君のわがままなカノジョ。
うわ、目に吸い込まれそう…。
ちょっとドキドキしながら俺は答えました。
「俺の母さん、料理下手だから。それに仕事忙しかったし。だから昔からよく弟たちに作ってたんだ」
「そ、そうなんだ。」
「ちょっと味見してみる?」
俺がそう尋ねると、君はすごく嬉しそうに頷きました。
「いいの?食べる食べる!」
君が俺の弁当箱を覗き込むのを、俺は頬杖をついて眺めました。
わー、みんな美味しそう!
そう言って喜んでくれる君は、どれにしようか一生懸命迷っています。
まるで、どの木のどんぐりが一番美味しいか、悩んでいるリスですね。
ふわふわした髪が、窓から入った光でキラキラ輝いています。
色素の薄い、茶色の瞳は子犬みたいにつぶらです。
「じゃあコレっ!」
君が頑張って選んだのは、厚いだし巻き卵。
俺の自信作です。
「どうぞ。」
俺が微笑んで見せると、君は小さな手で卵焼きを摘んでそれを幸せそうに口に運びました。
「美味しーっ!」
君の満面の笑顔が、一番嬉しいですね。
どんな上手い世辞よりも、素直でわかりやすいです。