幸せの音が響く
―11時20分―


携帯の時計を見て「ふぅ・・」と一呼吸した。


朝、このままサボっちまおうかと考えた。
けど、今日サボると余計南と顔を合わせづらくなる。それに佐伯とも。

逃げたって何も始まらねぇ。




ガラッ――


「やぁ、おはよう」


いつもと変わらない態度。 

保健室(ここ)に来るまでに何をどう喋ろうか考えてきた。
なのに、佐伯(やつ)を前にした途端用意していた言葉が一気に消えた。

真っ白の頭の中、出てきた言葉は――


「南が好きなんだよ。
・・・勝ち気で口が悪く、人のコトをすげぇボロクソに言うし、こき使うし、女のくせによく食うし、でっけぇ口であくびはするし、女じゃねぇって思う時の方が多いのに、お化け屋敷が怖いとか甘いモノ大好きとか妙に女っぽくて・・似合わねぇとか思うのに、可愛くみえたり・・。
ワケ解んねぇけど好きなんだよ」

「どうする?俺から奪うか?立場上、広瀬の方が有利だ。
お前は同じ同級生、かたや俺は先生」

「そうだよ。お前と南の関係は危険なんだよ。
俺がバラしたら2人同じ学校にいることなんて出来なくなる。
そしたら南を振り向かせるチャンスはいくらでもある」

「そうだな」

「南を困らせたくないと思うほど俺は大人じゃないし少しでも気を引けるならなんだってする。
けど・・俺がどんなコトをしたってアイツの心は変わらない。
そんなコトをしたって南の心が手に入るわけねぇってことぐらい分かってんだよ。
俺は、南の涙を見たいわけでも傷つけたいわけでもねぇ。
ただ南のそばで笑いたいだけなんだよ」

「俺も一緒だ」

「でも、アイツが選ぶのはあんたなんだよ。
本人直々のお言葉だぜ?
本当いい性格してやがるぜアイツ。きっぱり言いやがった。ああ言われたらこっちも気分イイぜ」

「そうか」

「スッキリした。
好きになった相手が南でよかったよ」

「俺も同意見だ」

「あ、俺で恋のライバルが減ったと思うなよ?
アイツ気付いてないけどモテてるんだよ密かに」

「知ってる。無鉄砲で無自覚だから毎日心配だよ」

「ま、せいぜい頑張れよ先生。じゃーな」



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