AZZURRO
「クリス様?」

見えない…
と抗議しようとした雪乃より早く
クリスが口を開いた

「そなたが
見る様なものではない。」


その一言で

先ほどのジャンの取り出した中身は
自白剤に似たようなものだと
雪乃は感じた


雪乃世界でも
そういうたぐいの薬は存在するのであろう

しかし
善良な一般市民である雪乃にとって
それを使用している場面は
映画やドラマの作られた世界でしかなく

見える距離に

触れられる距離に

存在し
実際に使用されると思うと

底知れぬ恐怖を感じた


「ぐぅぁぁっ…」


その内
苦痛の声が雪乃に届く

雪乃は無意識に
クリスのマントを握っていた

そっと
クリスの手が雪乃の背中をなでる

「…殺せぇ…
もうやめろ…殺してくれぇ…。」


断末魔の叫びが聞こえたかと思うと
急に辺りは静かになった


雪乃は
クリスに確認するように顔を上げる

クリスは
ゆっくりうなずいて
雪乃を開放した


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